しばおの映画部屋

映画鑑賞記録

しかし、そこで起こっていることは紛れもない事実『マリウポリの20日間』(ミスティラフ・チェルノフ、2023)

 2022年2月24日、ロシアは特別軍事作戦の名のもとにウクライナへと侵攻を開始した。『マリウポリ20日間』(20 Days in Mariupol、2023)はAP通信の記者であり、本作の監督でもあるミスティラフ・チェルノフがマリウポリにロシアが侵攻してから最初の20日間を記録したドキュメンタリー映画である。

 

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 本作は米国第96回アカデミー賞において長編ドキュメンタリー賞を受賞した。監督自らが電波の届かない戦場で命がけで撮影した映像には、数えきれないほどの市民の姿が収められている。突然の襲ってきた惨禍に立ちすくむ者や、息子の帰りを待つ母親、インタビューを拒絶する夫婦、犠牲者の亡骸を淡々と埋葬する市役所職員、病院でけが人の治療をする医師と看護師、市民を守る軍人。目を疑うような非人道的な光景には、映画内で流れるニュースが用いる言葉は「映画のような」という文言であった。しかし、これらの映像は紛れもない事実なのだ。今自分の目の前で流れている映像が現実に起こっていることだと受け入れるのには十分すぎるほど、カメラに収められた者たちの目は暗く、怒りや悲しみに満ちていた。

 〇日目というテロップが表示され、フェードアウトでその日付が進むたびに状況は悪化する。同時に映画内に漂う低くローテンポの音楽がその恐怖を増幅させる。画面の暗転の後に画面に映されるのは朝日ではなく、ミサイルによって破壊された建物や爆発音であるように、観客は日数の経過をテロップからしか得ることができない。見ている者の時間感覚を失わさせるのが、この映画の恐ろしさであり、普段私たちが享受している日常が戦争によって奪われようとしている。"This is painfull"という劇中の言葉が映画館を出た後も重くのしかかる。加えて、世界のテレビメディアが流される中で数秒映る日本のテレビには、特異さのようなものも感じた。